Movable Typeオープンソースで状況は変わる?

先日、小粋空間様で「Movable Type が WordPress に負けた本当の理由」という記事が公開されていました。
その記事にあるように、Movable Typeはかつては人気がありましたが、ライセンスの問題などからWordPressに人気を奪われ、現在では世界的にはWordPressに大きく水をあけられていると言われています。

ところが、Movable Type 4の発表の際に、「今年の秋にMovable Typeのオープンソース版(MTOS)をリリースする」ということも同時に発表されています。
そこで、MTOSが出ることで、状況がどう変わるか(特に、WordPressとの競争関係)を考えてみたいと思います。

1.MTOSとは?

MTOSは現在進行中のプロジェクトで、まだ詳細まで情報が明かされていませんが、日本のシックス・アパートの記事によれば、以下のようなものです。

  • Movable Type 4をベースにしているが、Movable Type 4とは異なる製品
  • ライセンスはGPLになる予定

2.MTOSのライセンス

GPL(GNU General Public License)はGNUプロジェクトが定めたライセンスで、基本的な考え方は以下のようなものです。

  • ソフトウェアを配布する際にはソースコードを公開しなければならない
  • ソフトウェアの利用/改変/複製/再配布を自由に行って良い
  • 他のソフトウェアの部品として組み込んで良い
  • 改変したソフトウェアを配布する場合は、そのソフトウェアもGPLにしなければならない
  • 無保証であり、ソフトウェアの利用によってトラブルが起こったとしても、ソフトウェアの作者には責任はない

また、MTOSのサイトに、MTOSとMT4とのライセンスの違いについて記述がありました。
おおむね以下のような意味と解釈しています(間違っていればご指摘ください)。

相違点MTOSMT4個人版MT4商用版
料金無料無料有料(状況に依存)
商用利用可能?可能不可可能
個人利用可能?可能可能可能
Blog数の制限無制限無制限無制限
投稿者数の制限無制限無制限投稿者数に応じて料金が必要
再配布可能?可能不可不可
サポートは受けられる?ユーザーコミュニティからSixApartからSixApartから
機能基本機能のみ基本機能+α基本機能+α

3.商用利用ユーザーへの影響

上の表にあるように、MTOSは商用利用の場合も無料で利用できるようになる予定です。
従来は、MTを商用利用するには有料の商用版を使わなければならなかったので、この点は大きな転換です。
「商用サイトにMTを使いたいが、コストの点で断念した」という方には朗報と言えるでしょう。
この点ではWordPress等の他のBlogソフトのと互角に戦えるようになったと言えると思います。

また、MTは複数のBlogを運営しやすいですが、現状のWordPressには複数Blogを運営する機能がありません(複数ユーザー版のWordPress MUも開発されていますが)。
商用サイトだと、複数のBlogを組み合わせてサイトを構築するというパターンもよくありますので、その点ではMTが有利です。
さらに、MTでは静的再構築という弱点がありますが、商用サイトでは個人のBlogほどはサイト全体を再構築する機会はない(ちょこちょことカスタマイズを施すことは少ない)と思いますので、この点でWordPressより極端に不利にはならないと思います。

ただし、MTOSではSixApartからのサポートは受けられません。
何かトラブルが起こったとしても、ユーザー同士の情報交換を利用して解決する必要があります。
例えば、MTUG.jpや、miixのMovable Typeのコミュニティなどを利用する方法が考えられます。

商用版のMTは、主にWeb製作会社によって利用されていると思われます。
MTOSが出れば、技術力があって自力でトラブルを解決できるようなWeb製作会社なら、MTOSを利用することで、導入コストを抑えることができることになります。
つまり、技術力のあるWeb製作会社には、MTOSが有利に働くことが予想されます。

また、他社より有利な立場に立つためには、これまで以上にプログラミングのスキルが要求されることになりそうです。
(X)HTML+CSSしかできないWebデザイナーの方は、外部のプログラマとの協力関係を強化するか、自力でプログラミングをマスターする必要があると言えるでしょう。
なお、MTのプログラミングでは、Perl/PHP/JavaScriptを駆使できる能力が要求されます。

4.個人ユーザーへの影響

海外では、MT 3.0にバージョンアップした際に、個人でもライセンス料金を支払う必要が出た人が結構いて、それがMTからWPへユーザーが流れる1つの原因になりました。
ただ、現在の個人ユーザー(特に日本の個人ユーザー)の場合、コストのために乗り換えたというユーザーは少数派ではないかと思います。
むしろ、機能的な面でのユーザーの移動が多いように見受けられます。

日本でMTからWPに乗り換えた方の意見を見ると、「再構築不要」という点を上げている方が多いです。
MTは基本的にページを静的に再構築する仕組みであり、テンプレートを変更すると、多くのページの再構築が必要になります。
エントリー数が多いBlogだと、すべてを再構築するのに数分かかることもあります。

一方、WPならページを表示する時点で動的に構築が行われるので、Blogを管理する側にとって楽です。
アクセスが多い人気Blogだと、動的再構築はサーバーに負荷がかかるという問題がありますが、平均的な個人Blogであれば、1日のアクセスは数百程度だと思いますので、負荷もさほど問題にはならないと思われます。

また、WPでは「テンプレートの種類が豊富で、しかも切り替えが簡単」という点もあります。
MTでは、テンプレートを切り替えるには、手作業でのカットアンドペーストが必要です。
しかし、WPならテンプレートのファイル群をアップロードして、使いたいテンプレートセット(テーマ)を選ぶだけです。

機能的な面でWPに移行した(またはWPを選んだ)方は、MT4やMTOSに興味は持たれるかも知れませんが、MTに戻ってくることはほとんどないと思います。
特に、プラグイン等でバリバリとカスタマイズしている方だと、それを捨ててMTに戻ることはまずないでしょう。
このように、個人ユーザーの分野では、当面は現状どおりの流れが続くと思われます。

5.MTOSに期待したい

前述したように、世界的にはWordPressがMTを大きくリードしています。
MTOSが出るからといって、この状況がすぐに大きく変わることは、おそらくないと思います。

特に、再構築の問題がどうにかならない限り、個人ユーザーを引き戻すのは難しいでしょう。
一応「ダイナミック・パブリッシング」が選択肢としてありますが、既存のプラグインを利用するのが難しく、十分な解決策にはなっていません。

また、現在では「MTとWPの住み分け」が進んでいるように思います。
MTには、大規模サイト向けの「Movable Type Enterprise」(MTE)という製品もあり、日本のシックス・アパートはMTEに力をかなり入れていると聞いています。
MTEなら、大規模な案件を受注すれば収益も大きくなるでしょうから、力を入れるのも当然と言えるでしょう。
これがさらに進んで、「MTは商用サイト向け、WPは個人向け」という流れが加速するかも知れません。

ただ、MTOSがGPLライセンスで出れば、一般のプログラマがMTOSの開発に参加しやすくなり、それによてMTの改善が進むことも考えられます。
また、MTをベースにした派生ソフトが出ることもあるかも知れません。
このように、MTOSはこれまでの状況を変える可能性も持っています。
MTOSの全貌がまだ見えていない段階ですが、今後に期待したいことは確かです。